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2024年9月

2024年9月30日 (月)

フォーラム「子どもの居場所・学び場と文化芸術のまちでの交点」@アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)

20240822-acy

ACY(Arts Commission Yokohama)が開催したフォーラム「子どもの居場所・学び場と文化芸術のまちでの交点」に参加しました。会場は、横浜市庁舎にある横浜市市民協働推進センター。2024年8月22日に開催。

本フォーラムの趣旨は、ACYから以下の通り引用します。

「子どもや若者がコミュニティの中で育つ機会が減るなか、青少年や子どもの居場所が一層求められています。また、STEAM教育や教科横断的な学習は学校に限らず増えています。文化芸術に関わる活動は、これまでも地域の中で副次的に居場所や学びの場として機能していましたが、さらに学校や家庭以外の教育や社会包摂の場となる可能性を秘めているのではないでしょうか。本フォーラムでは横浜や全国各地の実践を紹介します。今回は特に中高生の年代との活動に焦点をあて、登壇者に活動に携わっている10代の方々もお招きします。子どもの居場所・学び場づくりに文化や芸術がどのように関われるかを考え、今後の展望や新しい視点を得られることを目指します。」

 

 フォーラムに登壇した三団体は以下の通りです。

① 水戸芸術現代美術センター「高校生ウィーク」(茨城県水戸市)

② 特定NPO法人こころのまま「心のままアートプロジェクト」(静岡県沼津市)

③ Art Lab Ova「横浜パラダイス会館」(神奈川県横浜市)

 本フォーラムのモデレーターを田中真実さん(認定NPO法人STスポット横浜 副理事長・事務局長)が務めました。

 

水戸芸術現代美術センター「高校生ウィーク」(茨城県水戸市)

 水戸芸の教育プログラムコーディネーターの中川佳洋さんから、水戸芸が1993年から始めた「高校生ウィーク」の始まりと今までに至る経過の説明がありました。

 一年間何度でも現代美術ギャラリーの展覧会を鑑賞できるハイティーンパスを導入するにあたって、もっと多くの高校生に水戸芸の展覧会に足を運んでもらいたいという目的で導入したのが「高校生ウィーク」。どういったものかというと、水戸市内16校を対象に各校に一週間ずつ無料招待するというもので、1993年に開始した。2000年から「高校生ウィーク」の拡大期に入り、「ポスタープロジェクト」がはじまりました。高校生ウィークのポスターを水戸芸スタッフと高校生で共同制作を行う。さらに、水戸芸の企画展の無料招待ポスター制作にも高校生が関わり、「ポスタープロジェクト」から「広報プロジェクト」へと少しずつ衣替えをし始めていく。

 広報プロジェクトから進化し始め、ワークショップスペースがカフェ(コーヒーやお茶をセルフサービスで飲める)として開放され、「高校生ウィーク」の期間中、15時から17時半まで、さまざまなプログラムを用意し、高校生が鑑賞者たちとが出会う場となる。「高校生ウィーク」の活動は,、そのままの名称を残し、展覧会と連動したワークショップや部活動など、さまざまなプログラムが行われる「カフェ」 をギャラリー内に設置し、その運営スタッフも高校生を含めた多世代(15才以上、大人も含める)に渡り現在でも行われています。

 中川さんに引き続いて、高校二年生の時「高校生ウィーク」に参加し活動を行い、現在都内の美術大学に通っている大木花帆さんが、「高校生ウィーク」との出会いと体験を語ってくれた。

 水戸芸のタワーを見ながら育った水戸生まれの大木さんは、最初は2013年水戸芸の演劇部門のワークショップに参加したあと、「高校生ウィーク」カフェが現代美術ギャラリー展示の奥にあることを知り、そこで楽しく工作できる場所ができることも知ったそうです。

 大木花帆さんは、高校時代の春休みの期間に友人たちと何度も「高校生ウィーク」カフェに通っていました。美術の場所というより、自由に工作ができる楽しい場所だと感じていた。水戸芸は、演劇、音楽、美術があり、たくさん入り口があるので、それらに関心を持っていない市民にも開かれている身近な場所だなと感じた。毎夏こども向けの美術や音楽、演劇のワークショップに参加していた。水戸芸の現代美術は遠いイメージがあったが、こどもの頃から通って身近な場所となり、公民館みたいな場所だった。

 大木さんが、「高校生ウィーク」に参加したのは2019年の3月と10月、スタッフとしてカフェの活動に参加した。参加した理由は、水戸芸は市民に開かれた場所であり、こどもの頃から通っていた場所でもあったからということでした。カフェというオルタナティブスペースで仲間と企画を立てたりした。「高校生ウィーク」カフェは人と出会う場所で、展覧会に観に来た大人を含めた鑑賞者や展覧会の作家とフラットな関係を持てる場所だった。美大の先生やギャラリーのスタッフは最初から立ち位置が決まってしまっているが、「高校生ウィーク」カフェでも多少は互いに紹介しあうが、同じ場所や空間を共有しあっていることだけでも仲良くなれた。それから5年は経ったが、現在でもカフェで知り合った人々とは交流が続いている。

高校生ウィーク2024 人とアートに出会う5週間|現代美術ギャラリー|水戸芸術館 (arttowermito.or.jp)

 

② 特定NPO法人こころのまま「心のままアートプロジェクト」(静岡県沼津市)

特定NPO法人こころのままの理事長の沼田潤さんから活動紹介。

 「アートを通じて地域とつながる、地域をつなげる」を合言葉にして活動している特定NPO法人こころのままの母体は、特別支援学校などに通う様々な障害を抱えた子どものお母さんのコミュニティである「障害者のしごとを考える母の会」です。

 2020年度から開始した「心のままアートプロジェクト」は、本来は外で大きな作品を作るワークショップを予定していましたが、コロナ禍の影響により、医療ケアが必要なこどもたちが利用する施設とオンラインで結び活動してきて、少しずる活動を変えながら、現在は地域の高校生が主体となって、様々な障がいを抱える生徒や児童をサポートしながら表現活動と交流活動を行っている。

 アートプロジェクトを始めたきっかけは、主に知的障がいや視覚障がいのこどもを抱えるお母さんたちが集まって、こどもが好きなこと、得意なこと、自分らしく過ごせることを見つけて、一人一人に役割を作っていこう、将来の仕事に繋げていこうという活動を行ってきた。

 沼田さん自身、知的障がいを伴う自閉症の息子の母親で、息子は現在19歳になっている。数ある課題のなかで、親がいなくなったあと、こどもたちはどう生きていくのか、同じ悩みを持つお母さんたちがやるべきことが見えてきた。

 自分たちのこどもは、言葉でのコミュニケーションは苦手ではあるが、自己表現する力はとても豊かだ。親子で出来る楽しめる活動をしている。私たちなりの文化芸術活動を「心のままアート」と呼んでいる。ほとんどのこどもは特別支援学校に通っています。その特別支援学校を知ってもらう「心のままアート」展を毎年開催しました。

 まず地域の高校生とアートで交流を図り、いろいろな環境で障がいを持つこどもが育つことで自然と互いを受け入れて理解が深まると思った。どうしてもイベントに福祉関係者がばかり集まりがちになるので、まず一緒に楽しんでくれる地域のこどもたちを増やしていこうと考える。静岡県の土木課の協力を得て、工事現場の仮囲いをお借りして、壁を使ってペンキの水鉄砲や水風船でフラッシュアートを、オンラインで医療ケアが必要なこどもが利用する施設を結んで、それぞれの場所でペンキだらけになって楽しんだイベントだった。

 その時に参加してくれた静岡県立の美術部の高校生たちも楽しんでくれたことを後輩たちに伝えてくれて、翌年から私たちのプロジェクトに高校生達が参加してくれるようになった。2022年からは、静岡の県立の高校生たちが授業の一環としてワークショップに参加してくれている。先輩から後輩に受け継いでいく高校生たちと障がいを持つこどもたちとのワークショップは現在でも続いている。支援する側、支援される側ではなく一緒に楽しむ仲間になってくれていることは親としても嬉しく感じている。共に豊かな時間を過ごせている。達成感を得るプロジェクトに参加したことで、障がいを持つこどもにとって、進路に影響を与えていると思うと親としてこみ上げるものがある。

特定NPO法人こころのままの理事長の沼田潤さんのお話の後、引き続いて、静岡の県立高校生の体験話がありますが、ここでは割愛します。長文になるので。

特定非営利活動法人こころのまま | 沼津に拠点を置く特定非営利活動法人こころのままのWEBサイトです。特別支援学校などに通う様々な障害を抱えた子どものお母さんのコミュニティである「障害者のしごとを考える母の会」から誕生しました。障害児者の生活の質の向上や働く環境の整備に寄与してまいります。 (kokoronomama.jp)

 

③ Art Lab Ova「横浜パラダイス会館」(神奈川県横浜市)

蔭山ヅル(アーティスト、Art Lab Ova「横浜パラダイス会館」主宰)
スズキクリ(アーティスト、Art Lab Ova「横浜パラダイス会館」主宰)

 前二つの団体の報告と比べ、Art Lab Ova「横浜パラダイス会館」を主宰する蔭山ヅルさんのお話はハチャメチャに面白く、なかなか文字起こしできずらいので、筆者から見た、Art Lab Ova「横浜パラダイス会館と蔭山ヅルさんのことを書き綴ります。

 Art Lab Ovaが運営する「横浜パラダイス会館」がある場所は、繁華街の伊勢佐木町の通りの裏通りの若葉町です。伊勢佐木町と若葉町一帯は、戦後、米軍に接収され、米軍の飛行場がありました。伊勢佐木町は戦前からある繁華街ですが、そのど真ん中に米軍飛行場があったということです。横浜パラダイス会館の隣に、映画館「ジャック&ベティ」があり、この映画館の前身は、横浜日劇でした。

 この若葉町一帯には、東南アジアやロシアなどの外国籍の住民家族が数多く住んでいます。全校生徒数(約600名)の約半数を外国籍若しくは海外ルーツのこどもたちが占める南吉田小学校もその近くにあります。この小学校の運動会で行う場内放送アナウンスは、母語を話すこどもたちが受け持っています。

 このような環境の地域で活動する、横浜生まれの蔭山ヅルさん(武蔵野美術大学油絵学科卒)は、「横浜パラダイス会館」を拠点に若葉町という下町の狭間で「場」や「出来事」を通じて「関わり」を探るアートプロジェクト活動を行っています。

 美大をでた蔭山ヅルさんは、横浜パラダイス会館で絵画教室も開いているほかに、こども食堂、隣にある映画館ジャック&ベティとのコラボプロジェクトなど行っています。若葉町に住む外国籍のこどもやその親たちの相談をボランティアで受けています。

 横浜パラダイス会館では、定期的にブラジル炭火焼肉ガウシャの露店を出しています。その料理人は、ブラジルのアマゾン帰りの方で、「ガウジイ」(東京造形大学 芸術学部彫刻科卒)と呼ばれています。「ガウジイ」のブラジルフォークアートコレクションは見逃せないです。ヅルさんと交流があった「金魚おじさん」はとてもユニークなアーティストです。愚生も山下公園や伊勢佐木町通りで何度も見かけました。ヅルさんの話のなかで、この「金魚おじさん」は今年6月に89才で亡くなられたこと知りました。

「帽子おじさん」を紹介するウィキペディア
宮間英次郎 - Wikipedia

 こうやって整った文章で、パラダイス会館と蔭山ヅルさんの紹介をしてきましたが、ユニークな活動と、ヅルさんのはっしゃけた話を聞けました。

 以下のリンクは、キユーピーみらいたまご財団 の2019年度助成金を受けた時の、同財団の紹介サイト。
2019年度助成団体 | キユーピーみらいたまご財団 (kmtzaidan.or.jp)

以上

 

 

 

 

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2024年9月 2日 (月)

北川民次


世田谷美術館で今月の開催を前にして、栃木県真岡市の久保観光記念文化交流館美術品展示館と真岡市まちかど美術館で現在開催中の北川民次関連展を8月に観てきた。



久保貞次郎(1909-1996)の名前を冠した久保観光記念文化交流館美術品展示館は、米蔵として1923年に建てられた石蔵を真岡市出身の久保が1957年に自分のアトリエとした。その後、美術品展示館に整備された。久保が蒐集した約1500点の版画、油彩、水彩の他に、書籍、写真、原稿、書簡などの資料が真岡市のコレクションとなっている。
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同コレクションには、久保は瑛九から紹介された北川民次の作品約220点が含まれている。北川は久保を児童美術教育における師として、戦後の美術教育の革新に協力している。


久保観光記念文化交流館美術品展示館の「生誕130年北川民次展」(10月6日まで)は、真岡市のコレクションを中心に、瀬戸市美術館蔵を含めて、版画《自画像》を含めた版画、油彩、水彩の22点及び資料類が展覧された。



印象に残った作品は、《花うり娘(メキシコの女たち》(水彩)、《瀬戸の工場》(油彩、1948年)、《かまどの前の陶工》(油彩、1953年)、《工場A》《工場B》(いずれも油彩、1953年)など。またメキシコの花《シュプリペディウム》(版画、1965年)をはじめ花を描いた作品にも惹かれた。美術品展示館は小規模な建物だが展示は充実している。入館料無料。


久保観光記念文化交流館美術品展示館から徒歩10分程にある真岡市まちかど美術館の「北川民次に出会った作家たち」(9月16日まで)は、北川作品と共に、久保に北川を紹介した瑛九、北川の版画制作に渡辺行久や木村茂、北川に師事した安藤幹衛や竹田鎮三郎、北川と出会い児童美術教育に影響を受けた伊藤高義の作品全部で23点の展覧となる。入館料無料。
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久保観光記念文化交流館は、久保貞次郎の足跡を辿れる展示を行っている。
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1septiembre2024

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