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2023年11月

2023年11月23日 (木)

シエの歌 未来の地球像に向けて

ラテンアメリカ美術研究者の加藤薫先生から紹介を受け、コロンビア出身の美術作家ゴンサロ・ピニリャさんと知己を得てから17年になります。

今回、このゴンサロ・ピニリャを含めた4人の作品展「シエの歌」を12月20日(水)から2024年1月20日(土)まで、茨城県境町のS-Gallery粛粲寶美術館で開催します。

「シエの歌(スペイン語で Canción de Sie)」展は、南米コロンビアの高地地域の環境や生態系に 対する関心を持った 4 人のコロンビア人アーティストたちが制作した作品展です。

「シエ(Sie)」とは、コロンビアの先住民ムイスカ人の言語で、水に関わる宇宙観を表現した音楽です。ムイスカ人はコロンビアのアンデス山脈東側 2,600 メートルの高地に住んでいます。

「シエの歌」展は、アーティスト4人のアート制作(映像、サウンド、パフォーマンス、写真、版画))が生物多様性とどんな関係があるかを知る展覧会です。

「シエの歌」展が伝える「アート」は、美術品を制作することばかりでなく、自然破壊を検証することであり、鉱山採取する国や巨大企業そして労働者がこの自然破壊に関心を向けることができない状態を批判することでもあります。アートから、人々が自然との関わりあい方を考え、エコシステム (生態系)が地球に住む人々にもたらすウェル・ビーイング(幸福、健康)についても考えてみます。

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Natalia Espinel
ナタリア・エスピネル
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Patricia León
パトリシア・レオン
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Sebastián González Dixon
セバスチャン・ゴンサレス・ディクソン
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Gonzalo Pinilla
ゴンサロ・ピニリャ

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2023年11月 6日 (月)

私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために 環境危機に現代アートはどう向き合うのか? 森美術館

森美術館開館20周年記念展

私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

環境危機に現代アートはどう向き合うのか?

会期:2023年10月18日(水)-2024年3月31日(日)

会場:森美術館(東京都港区)

取材日:20231017日(プレス内覧会)

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「アートとエコロジー」は、美術館でいままでに何度も取り上げてきたテーマです。アートが環境問題を解決できるというよりは、「この状況をどう感じるのか、どうとらえるのか、この状況において人間の生活の在り方はどうなるのかと問い、想像してみることである」(哲学者・篠原雅武氏の言葉を引用)というスタンスであれば、「アートとエコロジー」というテーマにアプローチしやすいと考えます。

 

一方で、「アートとエコロジー」展を、安直で迎合的なテーマにしているという批判もあります。特定の価値観や行為を他人に押しつけてしまうことに対する批判がその根底にあります。つまり「地球に優しい」と喧伝されることだけが目立ってしまっています。「アートとエコロジー」をテーマにした展覧会の見方は、前述の哲学者・篠原雅武氏が述べるところに尽きるのかと感じます。

 

1章 全ては繋がっている」では、「エコロジー」は、「環境」だけに留まらず、地球上の生物、非生物を含む森羅万象は、何らの一部であり、その循環を通してこの地球に存在する全てのモノ・コトが繋がっているとしています。

 

ニカ・カネル(スウェーデン)の《マッスル・メモリー(5トン)》は床に敷き詰めた5トンの貝殻の上を観客が歩くことができ、貝殻は押しつぶされ、音を立てながら粉砕されます。コンクリートの原料である石灰石は、貝殻やサンゴ、海洋生物の骨が堆積し、数億年かけて作られます。本作において貝殻が粉砕されていくプロセスは、生物の一部が建築に近づいていく過程を示唆しています。この貝殻を建材として利活用するためには、洗浄や焼成というプロセスが必須であり、その過程では重油を原料とする多大なエネルギーが消費されるという矛盾があります。

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ニカ・カネル(スウェーデン)《マッスル・メモリー(5トン)》(2023)

 

天井から掛かる何本もの長い布は、韓服(朝鮮半島地域の民族衣装)とコットンの布からできているガーゼの柱です。詩人、アーティスト、映像作家、活動家のセシリア・ヴィクーニャ(チリ出身)の作品《キープ・ギロク》(2021)です。アンデス地方で5千年以上前に生まれたとされている糸と結び目によるコミュニケーション手段である「キープ(結構文字)」の作品《キープ・ギロク》(2021年)は、「グローバリズムが席巻する現代において、消えゆく先住民、自然界で起きている気候変動の恐るべき影響などをめぐる論議に一石を投じています」。

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セシリア・ヴィクーニャ(チリ出身)《キープ・ギロク》(2021)

 

日本は戦後の高度経済成長期において、自然災害や工業汚染、放射能汚染などに起因する深刻な環境問題に見舞われました。日本の社会や現代美術史をエコロジーの観点から読み解くべく、1950年代以降の日本人アーティストの作品や活動に注目したのが「2章 土に還る 1950年代から1980年代の日本におけるアートとエコロジー」です。 

 

桂ゆき(1913-1991)の絵画《人と魚》(1954年)と岡本太郎(1911-1996)の絵画《燃える火と》は、いずれもビキニ環礁で第五福竜丸が被爆した事件を扱った作品です。桂ゆきは、「絶望的な渦のような顔を描き、放射能で汚染され穴だらけで泳いだ魚を食べた人を暗示している」。岡本太郎は、「毒々しい赤いマグロが鮮やかな黄色と赤に燃え上がる火の手のなかにみえ、巨大なキノコ雲が恐ろしい目玉を向けている」。「土を素材に原爆や反原発を主題とする」作品を制作した鯉江良二の《土に還る》(1971年)。(いずれの作品は、プレス内覧会でも撮影禁止となっているので作品画像は掲載出来ず)

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ドキュメンタリー写真が捉えた環境汚染

 

この得体の知れない作品は、華道家の谷口雅邦(1944年生まれ)の《発芽する?プリーズ!》(2023)です。「生け花というよりも現代美術のインスタレーションに近く、しばしば匂いや質感が強調されているものの、植物がもはや原形をとどめないほどに解体されています」。谷口の作品は、「都市空間の厳格な総合幾何学的デザインを土の匂いのする儚く有機的な素材で」存立しています。

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これまた得体の知れない作品ですが。殿敷侃(1942-1992)の《山口ー日本海ー二位ノ浜 お好み焼き》(1987)は、山口県二位ノ浜海岸でごみを集め、あらかじめ掘っておいた深い大穴にごみを投じ、油をかけ燃やしたものです。ゴミのほとんどはプラスチックで、遠く北のシベリアや南のフィリピンから日本海へ流れてきたものでした。火をつけると、プラスチックは溶け、掘った穴の側面や底の土にくっついてきます。熱が冷めてから、その2トンもの塊はクレーンで引き上げられました。本展では、「メメント・モリ」の象徴として森ビル53階の展示室に作品は設けられ、輝く首都を見下ろしています。殿敷が体験した恐ろしい核の悲劇を繰り返すな、この焦げたお好み焼きのお化けのように東京が焼け野原になるかもしれないぞ、と警告を発しています。広島で生まれた殿敷は、3歳の時に父親が原爆で亡くなり、母親は原爆症で死去しています。殿敷自身も原爆症に悩まされながら亡くなりました。

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人類は、地球上のあらゆる資源を利用して文明を発展させ、工業化、近代化、グローバル化を推し進め、短い期間で地球環境を変化させました。「3章 大いなる加速」では、人類にとっての喫緊の課題を批判的な視点で分析しつつ、現状を取り巻く文化的、歴史的背景を題材とする作品を通じて、より広い視点から地球資源と人間の関係を再考します。

1999年から2010年まで日本で教育を受けたモニラ・アルカディリ(1983年生まれ、クウェート国籍、ベルリン在住)の《恨み語》(2023)(下の作品)は、真珠と石油産業の歴史を通して、人間の自然への介入と搾取、そして人間と自然の共存について考えてみる作品です。古代より天然真珠の採取は行われてきましたが、20世紀初頭の日本の養殖真珠に駆逐されて衰退し、石油資源の開発で経済が発展しました。こうした歴史を辿りながら、アルカディリは真珠と石油の色と形を結びつける作品を発表してきました。作品名の《恨み語》は、五つの真珠が「侵入」「搾取」「干渉」「劣化」「変貌」という恨みを語ることから由来します。

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保良雄(1942年滋賀生まれ)の《fruiting body》(2023)(左の作品)は、「何億年もかけて自然に形成された大理石とゴミを高温で溶解したスラグとを並置することで、異なる時間軸を表現しています。バクテリア、植物、動物、人間などの生物、日常的な道具や機械、AIをも含む無生物、有機物と無機物、これらを個々の存在として認めること、すなわち人間中心主義ではない視点の表現を制作の目的としています」。

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 最終章の「4未来は私たちの中にある」は、環境破壊を招いたのは、人間の「選択」の結果であるとし、現状を打破するには、人間が在り方を改めることが必要だと説いています。非西洋的な世界観を讃える作品、モダニズムの進歩と終わりのない成長原理への疑問、アクティズム、先住民やフェミニズムの視点、精神性(スピリチュアリティ)、デジタル・イノベーションがもたらす可能性とリスクなど、様々な叡智を顧みながら、地球の未来を再考します。

 

アグネス・デネス(1931年ブタペスト生まれ)の《《小麦畑ー対決:バッテリー・パーク埋立地、ダウンタウン・マンハッタン》(1982)》は、1982年にニューヨークのマンハッタンに麦畑を出現させることで、開発主義への疑問を呈しました。

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アグネス・デネス《小麦畑―対決:バッテリー・パーク埋立地、ダウンタウン・マンハッタン》(1982

ジェフ・ゲイス(1934年ベルギー生まれ)の《野草のグリッド六本木》(2023)(左の作品)は、六本木ヒルズのコミュニティと協働するプロジェクトで、雑草を、癒しをもたらすものとして再認識させます。

 

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プレス説明会:森美術館館長・片岡真美氏、同館アジャンクト・キューレーター・マーティン・ゲルマン氏、同館キュレーター・椿玲子氏(左から)。出品作家たちの紹介場面。

 

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