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2018年10月

2018年10月28日 (日)

《骸骨の聖母 Santa Muerte》 メキシコ「死者の日」を前にして

 キリスト教の行事であるハローウィンが、ここ数年日本各地で盛大に行われている。日本人は、年間を通して、仏教徒、神道の信者、キリスト教信者と、信徒の姿を変えまくっている。

 今年、映画「リメンバーミー(原題はCoco)」が日本で公開されたが、その観客動員数の累計は210万を超えていると言われている。天然色(表現が古い)に満ちた「死者の国」に迷い込んだミュージシャンを夢見る少年ミゲルが、「死者の国」のガイコツたちとの冒険を描いたファンタジー映画だ。この映画は、メキシコの伝統行事「死者の日」を基にしている。

 今頃のメキシコは、11月の1日と2日の「死者の日」に向けて盛り上がっている。この最も土着的なお祭りを日本で流行らしたほうが、ハローウィンよりもよいのではないのか常々思っている。むろん、この「死者の日」も、現代にいたっては、お菓子メーカーや仮装業者にとっても商機であること確かなのだが。「死者の日」は、日本のお盆に近い。故人(先祖)を敬い、祭壇にお供え物をし、故人(先祖)のお迎えすることは同じである。メキシコ各地によって趣向の違う祝い方があるので、楽しみ方はいろいろです。

 下記の動画は、日本語で簡単に「死者の日」を紹介しています。

 ところで、「死者の日」の流れと異なる民間信仰がメキシコにはある。それは「骸骨の聖母サンタ・ムエルテ(Santa Muerte)」である。骸骨の姿の聖母を信仰するメキシコ人は、2012年現在で300万人を超えているという。「死が日常生活の中に当たり前のように存在している」といわれるメキシコには、骸骨のイコンが豊富だ。

 「骸骨の聖母」を信仰し、その癒しや救いを求める人々の精神生活と、多様な図像表現を紹介する書籍がある。ラテンアメリカ美術研究者の加藤薫(1949-2014)が著した「骸骨の聖母 サンタ・ムエルテ 現代メキシコのスピリチュアル・アート」(新評論、2012年)は、「骸骨の聖母サンタ・ムエルテ」のルーツとその現在がわかる。多彩でキュッチュな骸骨イコンとはどのようなものかも。

 この本を基にした展覧会を2012年に企画開催しました。詳細は下記リンクから。

加藤薫写真展「骸骨の聖母 サンタ・ムエルテ」 
2012年9月25日(火)-10月5日(金)
http://galerialibro-art.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/kaoru-kato-sant.html

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2018年10月27日 (土)

ゴヤの《Visión fantasmal》 サラゴサ美術館

 ゴヤが1801年に描いた油彩画《Visión fantasmal(幽霊の幻影)》が、サラゴサ美術館(スペイン)で展示されている。本作は、1928年からその所在が明らかにされていなかったが、18世紀美術の研究家Arturo Ansón氏によって発見されたそうです。サイズ26×17センチのこの小品のモノクロ画像(Juan Mora Insa撮影)が、ゴヤの没後百年を記念し、ゴヤ特集を組んだ雑誌「Aragón」(1928年発行の号)に掲載され、その存在が知られていたが、爾来その行方が分からなくなっていた。ゴヤ没後190年にあたる今年、ゴヤがまさに亡霊として現れたかのようだ。

 サラゴサ美術館では、このゴヤ作品を含めて、新収蔵品として、18世紀の画家BayeuとGonzález Vázquezの作品も併せて三作品が展覧中です。

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La obra 'Visión fantasmal' ha sido presentada este lunes en el Museo de Zaragoza. JAVIER CEBOLLADA/EFE

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2018年10月26日 (金)

阿部展也 -あくなき越境者 NOBUYA ABE 1913-1971 Insatiable Quest beyond Borders

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 独学で画家を学んだ阿部展也(新潟県生まれ1913-1971)は、1937年に出版された、瀧口修造との共作詩画集『妖精の距離』によって注目を集めました。

 今展では、阿部展也の初期から晩年にいたるまでの主要作品に加えて、雑誌や写真、下絵などの資料や、交流のあった国内外の美術家の作品を含む約230点が紹介されています。

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画:阿部芳文(展也)/詩:瀧口修造 詩画集『妖精の距離』12点組(一部)
1937年

 戦前に実験的な写真を発表し、阿部展也は前衛写真の運動にも重要な足跡を残しています。

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大辻清司とのコラボレーション:下落合のアトリエでの撮影
左:《オブジェ、阿部展也のアトリエにて》 1950年
右:《オブジェ、阿部展也のアトリエにて》 1950年

 戦中は、陸軍の報道部写真班に所属し、出征先のフィリッピンで雑誌の表紙や挿画、写真を手掛けました。

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フィリッピンのローマ・カトリック信者の宣撫を目的に発行された雑誌『みちしるべ』の表紙原画 1943年 混合技法 紙

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《雑誌『みちしるべ』》 1942-43年(1-5号を合本)


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フィリッピン時代の写真帖

 戦後は具象的なモチーフを離れて、アンフォルメルから幾何学的抽象へと作風が目まぐるしく変わってゆくことになります。1948年から50年代末頃までは、人間像の変容を描いた作品の制作を行っています。

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奥:《作品》 1949年 油彩 カンバス
左:植物/生物エスキース

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左:《生誕》 1949年 油彩 カンバス
右:《飢え》 1949年 油彩 カンバス

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左から、《花子》 《太郎》 《蛸猿》 いずれも1949年作で油彩、カンバス

 1953年に日本美術家連盟の代表としてインドに7か月間滞在し、人々の暮らしや歴史的な建造物をとらえた写真は、「記録」としての要素が強く、前衛写真とは異なる方向性をみせています。

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岩波写真文庫284 インドの一断面 1958年発行

 1957年から欧州や米国での発表や取材の活動が活発となり、自在に地域と時代を越境し始めます。そのなかで、作品は変化し続けます。1959年以降、作品画面から具象的モチーフは姿を消し、「材質自体が語りかける」絵具、エンコースティックによる抽象絵画に移行してゆきます。これは蜜蠟と油絵具等を調合し、バーナーや金属コテで加熱しながら画面に定着させる技法です。

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旧ユーゴスラヴィアのスケッチ

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左:《Flowing Stone》 1960年 エンコースティック、板
右:《CONVERSATION OF JAPAN》 1960年 エンコースティック、板

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左から:《R-1-ROMA》 1968年、《R-29》 1970年、《R-32-ROMA》 1970年、《R-7-ROMA》 1970年

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《作品》 1966年 樹脂

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右は、1974年に神奈川県立近代美術館で開催された「阿部展也回顧展」のポスター

 阿部展也は、創作活動のみならず、展覧会プロデュースまでも手掛けています。1965年5月に、BSN新潟美術館(新潟市中央区)で開催された「現代イタリア美術展」では、当時のイタリア美術の最新傾向を紹介する20作家(ルーチョ・フォンタナ、エンリコ・カステルラーニなど)38点が、阿部のコーディネートによって紹介されました。阿部とイタリアの前衛美術家たちとの交流が窺い知ることができます。

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「現代イタリア美術展」(BSN新潟美術館、1965年)の出品作の一部を展示しています。

 晩年の9年間は、ローマで単身で過ごし、同地で58年の短い生涯を閉じました。

阿部展也 -あくなき越境者
NOBUYA ABE 1913-1971 Insatiable Quest beyond Borders

埼玉県立近代美術館
(さいたま市浦和区常盤9-30-1 電話048-824-0111)
開催中 11月4日 (日)まで
休館日 月曜日
開館時間 10:00-17:30 (入場は17:00まで)
観覧料 一般1000円 大高生800円など
主催 埼玉県立近代美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会

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2018年10月 6日 (土)

Leonora Carrington. Cuentos Mágicos

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 レオノーラ・キャリントン/Leonora Carrington(1917-2011)は、20世紀最後のシュルレアリストとして、日本でも知られています。メキシコシティにある近代美術館/Museo del Arte Modernoで、キャリントンの足跡をたどる展覧会「レオノーラ・キャリントン 魔法の物語/Leonora Carrington. Cuentos Mágicos」が開催された(9月23日終了)。

 本展は、壁画、イーゼル絵画、グラフィック、彫刻、素描、仮面、舞台美術、写真、テキスタイル、資料、書籍、キャリントンの使用した品々230点を通じて、キャリントンの独特な世界を紹介した。

Leonora Carrington. Cuentos Mágicos
Museo del Arte Moderno, Ciudad de México, México
21/04-23/09, 2018


Gabriela Velásquez Robinson, directora de Fomento Cultural de la Fundación BBVA Baccomer, comenta sobre la exposcición de la obra de Leonora Carrington.

Llega la exposición ´Cuentos Mágicos´ de la artista surrealista Leonora Carrington al Museo de Arte Moderno de la Coudad de México, la esposiciónestará abierta  a partir del 21 de abril al 23 de septiembre de este año. Milenio

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2018年10月 1日 (月)

版画キングダム 荒木珠奈

版画キングダム

 町田市立国際版画美術館が所蔵する版画約180点で古今東西の世界を漂ってきた。

 木の板や銅の板に線を刻めば、板からの反発力が手に伝わってくる。曲線を刻むときは、その反発力が一段と感じる。結果、毛羽立ったような曲線を見るとがっくりくる。一度刻んでしまったらとりかえしができないような感情に陥る。何枚も何回も刻むことしかないんだろうな。

 町田市立国際版画美術館で開催された「版画キングダム 古今東西の巨匠(キング)が勢ぞろい!」(9/2で終了)は、そんな筆者の気持ちを慰めてくれたのか、それともますます自信を失わせるような展覧会となったのか。

  「自然」(歌川広重、葛飾北斎、ルーベンス、恩地孝四郎、中林忠良など)を愛でていると、「旅」(広重、歌川豊国、小林清親、野田哲也など)に出たくなった。

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 いつの間にか「都会」(エリック・デマジェール、織田一磨、篠原有司馬、フェルナン・レジェなど)に入り込んでしまった。そして「恋」(モーリス・ドニ、芳年、辰野登恵子、草間彌生など)をする。

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 がしかし、待っていたのは「苦悩」(月丘芳年、田中恭吉、藤森静雄、フラシスコ・デ・ゴヤ、エドゥアルド・ムンク、レンブラントなど)。そして「祈り」(ケーテ・コルヴィッツ、ジョルジュ・ルオー、棟方志功など)の世界に。

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 ようやく帰れる。「おかえりなさい!」(斎藤清、畦地耕太郎、オノレ・ドーミエなど)。最後、なぜか版画の「舞台裏」(豊国、アブラハム・ボス、ロイ・リキテンシュタインなど)で終わる。

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インプリント町田展2018 荒木珠奈-記憶の繭を紡ぐ
(9/2で終了)

 長野の松本、群馬の富岡で生産された生糸は、横浜まで運ばれ、港から海外に輸出されました。その道筋をシルクロード(絹の道)と呼んでいました。

 横浜はシルクのスカーフ生産やライセンス生産で知られています。大岡川沿いに捺染工場がかつてありましたが、今ではすっかり見かけなくなりました。

 幕末から明治まで、原町田は、繭や生糸の中継地として、また養蚕の地としても栄えた街です。この原町田にある町田市立国際版画美術館で、繭をテーマにした「荒木珠奈-記憶の繭を紡ぐ」が開催されました。

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 荒木珠奈さんは、武蔵野美術大学短期大学を卒業し、1993年から94年まで、メキシコ国立自治大学(UNAM)で学び、一度帰国し、武蔵野美術大学造形学部を修了したのち、国立エスメエラルダ美術学校(Escuela Nacional de Pintura, Escultura y Grabado "La Esmeralda")の招待作家・在外研修員としてメキシコに再び向かいました。2008年、オアハカ州立自治大学ベニト・ファレス美術学校(Escuela de Bellas Artes de la U.A.B.J.O.)の客員教授となり、現在では、アメリカのニューヨークに住んでいます。

 本格的に版画を学んだメキシコでは、荒木さんは、「死者の日」の祝祭や、「光と影」、「生と死」のコントラストから強い影響を受けました。今の時期、メキシコは独立記念日を祝ったばかりで、11月には、日本のお盆とも似ている祝祭「死者の日」を迎えるところです。

 初期の作品から始まり、故郷と異郷のメキシコをめぐる作品、友人の詩集に寄せた作品、そして今回の展覧会のテーマの「記憶の繭」の作品まで、版画とオブジェ約60点。

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 《「うち」シリーズより》は、作家が幼い頃住んでいた団地がモチーフとなっている。版画との組み合わせた作品。暖かい光がベランダから漏れるが、なにかサスペンスめいたものを感じる。

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 ボウルの淵に立っている人物が、湛えた液体を見つめている《思い出のボウル》(1999年 エッチング、アクアチント)。ボウルの液体はスープなのだろうか。一見したら孤独を感じさせるけど、どことなく暖かい思い出が詰まっているような作品。

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 《Una marcha de los esqueletos(骸骨の行進-ピンク》(2001年 エッチング、アクアチント、手彩色)と《Una marcha de los esqueletos(骸骨の行進-碧》(2001年 エッチング、アクアチント、手彩色)。

 友人の詩にもとづく版画、昔話や神話に取材した作品が続く。

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《Cry me a river....》(詩:アーサー・ハミルトン、意訳:小松未希、1998年 エッチング アクアチント)

 「非日常と日常」「生と死」をテーマとして作品制作する荒木さんは、町田に取材して注目したのが「養蚕」だった。幼虫から成虫の生まれ変わる命の「再生」が行われる繭は、絶好の題材となりました。今展を前にして、実際に自宅で卵から蚕を育てたそうです。「記憶の繭」では、繭を題材にした版画とインスタレーションが展示されている。

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新作インスタレーションためのドローイング

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町田市立南第三小学校の3年生54人と荒木珠奈さんとで制作した作品「記憶の繭」。児童が持参した「大切にしていた思い出の物」を薄紙に包み、白い毛糸やリボンを巻いてい完成させた。

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