宮川香山(1842~1916)が開いた横浜眞葛焼の窯場は、三代宮川香山の時、第二次世界大戦末期の横浜大空襲(1945年5月)によって焼失した。その窯場跡は、横浜中心部からほど遠くない私鉄の駅から歩いた住宅街にあり、現在では「横浜真葛焼窯場跡」の案内板だけが往時の面影を残すのみである。窯場跡までは上り坂が続き、登り窯を築くには適した地であることがわかる。

案内板「横浜眞葛焼窯場跡」と「庚坂(かのえざか)」と刻まれた石柱
(石柱には宮川香山の名も刻まれている)
撮影 GaleriaLIBRO
宮川香山は、1842年(天保13)、京都で陶業を生業とした眞葛長造(1797~1860)の四男として生まれた。父・長造の下で、宮川香山は製陶を学び、父や兄が亡くなったため1860年(万延元)、若くして家業を継ぐことになる。当初は茶道具を制作していた。1870年(明治3)に開港して間もない横浜に移住、野毛山(現在の横浜市西区老松町)に窯を築き、翌1871年(明治4)には、太田村不二山下(現在の横浜市南区庚台)にて、本格的に輸出陶磁器の制作を開始した。その窯が、明治、大正、昭和にわたって横浜に花開いたやきもの「眞葛焼」の始まりであった。
横浜で輸出陶磁器の制作を始めた初代宮川香山は、高い評価を得て、1876年(明治9)のフィラデルフィア万国博覧会や、1878年(明治11)のパリ万国博覧会など、国内外の博覧会・展覧会で受賞したことによりその作品は賞賛を浴び、一層人気を集めるようになる。そして陶芸界では二人目となる帝室技藝員に1896年(明治29)に任命された。1916年(大正5)5月20日、日本の陶芸史に足跡を残した宮川香山は生涯を閉じる。

宮川香山の墓(横浜市営久保山墓地)
撮影 GaleriaLIBRO
現在、サントリー美術館(東京都港区)で開催中の「没後100年 宮川香山」展は、約50年にわたり宮川香山の作品を収集、研究し続けてきた田邊哲人氏のコレクションを通じて、香山の「眞葛焼」の全貌を伝える。
没後100年 宮川香山展
会場 サントリー美術館
東京都港区赤坂9-7-4
東京ミッドタウン ガレリア3階
会期 2016年2月24日(水)~4月17日(日)
※作品保護のため会期中、展示替の場合あり
開館時間 10:00~18:00
(金・土は10:00~20:00)
※3月20日(日)は20時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日 火曜日
※4月12日(火)は開館
入館料 一般1,300円/大学・高校生1,000円
※中学生以下無料
※障害者手帳を所持者は本人と介護の方1名様のみ無料
主催 サントリー美術館、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社
協賛 日本写真印刷、三井不動産、サントリーホールディングス
協力 神奈川県立歴史博物館
本展では、宮川香山の京都時代・備前虫明時代の茶道具類、横浜眞葛焼草創期の粉彩の作品のほかに、陶器の表面をリアルな浮彫や造形物で装飾する香山独自の表現方法となる「高浮彫」の作品が展示されている。この緻密で装飾性の高い技法によって、鳥や植物、動物、鬼や擬人化された蛙など、いろいろなモチーフが立体的にそして写実的に表現されている。

高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指
宮川香山作
明治時代前期 19世紀後期
田邊哲人コレクション
Lidded water jar with sculptural relief of peony and waking cat
by Miyagawa Kozan
The second half of the 19th century, The first half of the Meiji era
Tetsundo Tanabe Collection

高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指(部分)
宮川香山作
明治時代前期 19世紀後期
田邊哲人コレクション
Lidded water jar with sculptural relief of peony and waking cat (part)
by Miyagawa Kozan
The second half of the 19th century, The first half of the Meiji era
Tetsundo Tanabe Collection

高取釉高浮彫蟹花瓶
宮川香山作
大正5年(1916)
田邊哲人コレクション
Iron-glazed vase with crab sculptural relief
by Miyagawa Kozan
1916, The 5th year of Taisho
Tesundo Tanabe Collection

高浮彫南天ニ鶉花瓶 (一対)
宮川香山作
明治時代前期
19世紀後期
田邊哲人コレクション
A pair of vases with sculptural relief of nandin and quail
by Miyagawa Kozan
The scond half of the 19th century, The first half of the Meiji era
Tesundo Tanabe Collection
香山は新たな釉薬と釉下彩の研究に取り組み、眞葛焼の主力製品を陶器から磁器に切り替え、中国清朝の磁器にならって制作した青華、釉裏紅、青磁、窯変、結晶釉などの作品も展覧できる。

釉下彩白盛鶏図大花瓶
宮川香山作
明治時代中期~後期
19世紀後期~20世紀初期
田邊哲人コレクション
Large vase with chicken relief in white enamel, underglazes
by Miyagawa Kozan
The second half of the 19th century to the early years of the 20th century, The middle to the second half of the Meiji era
Tetsundo Tanabe Collection

色嵌釉紫陽花図花瓶
宮川香山作
明治時代後期~大正時代初期
19世紀末期~20世紀前期
田邊哲人コレクション
Vase with inlaid design of hydrangea
by Miyagawa Kozan
The last years of the 19th century to the first half of the 20th century, The second half of the Meiji era to the early years of the Taisho era
Tetsundo Tanabe Collection
最近のコメント