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2017年11月19日 (日)

「ディエゴ・リベラの時代-メキシコの夢とともに」展 埼玉県立近代美術館で開催中(12月10日まで)

Entrance


 メキシコの壁画運動は、1910年に勃発した革命達成後の文化創造運動として重要な意味を持っています。その運動の中心的存在であったディエゴ・リベラは「壁画の三巨匠」として知られています。ほかの二人は、ホセ・クレメンテ・オロスコ(1883-1949)、ダビッド・アルファロ・シケイロス(1896-1974)です。

 埼玉県立近代美術館で開催中の「ディエゴ・リベラの時代-メキシコの夢とともに」は、西洋の近代絵画様式からキュービズムに傾倒したディエゴ・リベラのヨーロッパ時代から、メキシコの壁画運動、野外美術学校、そしてメキシコの前衛へと、メキシコの近代美術の流れのなかで、ディエゴ・リベラを追います。

開館35周年記念展 ディエゴ・リベラの時代
DIEGO RIVERA AND HIS CONTEMPORARIES

会期 2017年10月21日 (土) - 12月10日 (日)
       10時-17時30分(展示室への入場は17時まで)
    休館日 月曜日
会場 埼玉県立近代美術館
    埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
    電話 048-824-0111
    美術館HP   http://www.pref.spec.ed.jp/momas/
観覧料 一般1200円、大高生960円
     ※20名以上の団体料金あり
     ※中学生以下と障害者手帳提示者は付添者1名を含めて無料
     詳細は美術館ホームページで

主催 埼玉県立近代美術館、メキシコ文化庁/メキシコ国立芸術院
    読売新聞社、美術館連絡協議会
後援 駐日メキシコ大使館

 メキシコの画家ディエゴ・リベラ(グアナフアト生まれ、1886-1957)は、10歳にしてサン・カルロス美術学校(メキシコ市)の夜間教室に通い、その後正規コースに編入し、モダニスト画家としての出発点となる風景画«農地»を制作しています。「第1章 プロローグ」では、サン・カルロス美術学校でリベラが師事したホセ・マリア・ベラスコの≪オリサバ山≫などのほかに、少年時代にその工房を訪ねたといわれているホセ・グアダルーペ・ポサダの作品群の展示があります。

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ディエゴ・リベラ《農地》1904年/ディエゴ・リベラ生家美術館蔵/Museo Casa Diego Rivera, Marte R. Gómez Collection, INBA, Guanajuato/© 2017 Banco de México Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F./Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.

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ホセ・マリア・ベラスコ《テオティワカンの太陽のピラミッド》1878年/メキシコ国立美術館蔵/Museo Nacional de Arte, INBA, Mexico City/Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.

 奨学金を得て、1907年スペインに渡ったはリベラはその後、フランス、ベルギー、イギリスなどを遍歴し、印象主義、象徴主義、新印象主義、点描主義などの表現を試みます。再びスペインにもどり、トレドでエル・グレコの研究に没頭します。同じ時期にリベラはキュービズムの影響を受けます。「第2章 ヨーロッパ時代のディエゴ・リベラ」では、ヨーロッパ時代のリベラの作品を紹介します。

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ディエゴ・リベラ《ブルターニュの少女》1910年//ディエゴ・リベラ生家美術館蔵/Museo Casa Diego Rivera, Marte R. Gómez Collection, INBA, Guanajuato/© 2017 Banco de México Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F./Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA  2017.


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ディエゴ・リベラ《銃を持つ水兵(昼食をとる船乗り)》1914年/ディエゴ・リベラ生家美術館蔵/Museo Casa Diego Rivera, Marte R. Gómez Collection, INBA, Guanajuato/© 2017 Banco de México Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F./Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTESY LITERATURA 2017.

 キュービズムの限界を感じてリベラが模索していた頃に、既存の美術史的な理論とは異なる思考を持っていたフランスの美術評論家エリー・フォールとの親交がありました。フォールの考えからリベラは壁画の構想を得ることになりました。その頃、パリのメキシコ大使館に駐在していた画家のダビッド・アルファロ・シケイロスと出会い、革命と芸術の一体化を図ろうとしていたシケイロスに対し、リベラは壁画の可能性を提案します。「第3章 壁画へ」では、リベラの壁画に関する写真や同時代の作品を取り上げると共に、シケイロスやホセ・クレメンテ・オロスコの作品もあわせて紹介します。

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ディエゴ・リベラ《とうもろこしをひく女》1924年/メキシコ国立美術館蔵/Museo Nacional de Arte, INBA, Mexico City/© 2017 Banco de México Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F./Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.

 美術を大衆のものにする実践的な実験となる野外美術学校のトラルパン校の助手に日本人画家の北川民次(1894-1989)が任命されたのは、1925年でした。この学校に小中学生や先住民の子供たちが数多く通うようになります。またメキシコの児童画を紹介する展覧会が1925 年に開催され、その翌年にはベルリン、パリ、マドリードなどに巡回し、メキ
シコの児童美術教育が世界的に注目されるようになりました。「第4 章 野外美術学校/美術教育/民衆芸術」では、北川民次の≪メキシコ水浴の図≫、野外美術学校運営の中心となったアルフレッド・ラモス・マルティネスの≪少女とアジサイの風景≫などのほか、刊行物『メキシカン・フォークウェイズ 特集:メキシコの小学生の絵画と素描』(1934年11月号)の展示があります。

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アブラーム・アンヘル《自画像》1923年/メキシコ国立美術館蔵/Museo Nacional de Arte, INBA, Mexico City/Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017

 メキシコには壁画運動のほかに重要な芸術運動があります。「第5章 メキシコの前衛—エストリデンティスモから¡ 3 0 - 3 0 ! へ」では、二つの前衛芸術の動きを取り上げています。ひとつは、前衛詩人マヌエル・マプレス・アルセがメキシコ市で1921年12月に発行したマニフェスト『アクトゥアル−前衛の新聞 第1号』が発端となって立ち上がったエストリデンティスモです。エストリデンテ(estridente)とは、「甲高い/きんきん響く/過激な」といった意味を持つ言葉です。マプレス・アルセからの保守的な文化・芸術の打破と刷新の呼びかけに、ディエゴ・リベラやイタリア出身の写真家のティナ・モドッティなどが参画しています。もうひとつは、1928 年に美術家によって形成されたグループの¡ 30 -30 !(トレイン
タ・トレインティスタス)です。革命期に広く使用されたライフル銃の弾丸の製品名をグループの名称に掲げた¡ 30 -30 ! は、北川民次を含めた野外美術学校の系譜に連なる美術家たちが中核メンバーでした。野外美術学校が継承してきた反アカデミー的な態度を軸に、1928 年に5 回にわたるマニフェストを発行し、賛同する美術家とともに展覧会を開催しています。本章では、雑誌、書籍の資料、ティナ・モドッティの≪アステカの赤子≫(前期のみ展示)、北川民次の≪タスコの裸婦≫などが紹介されています。

 ヨーロッパ滞在中、リベラは様々な国から来た美術家たちと交流しています。そのなかに、川島理一郎(1886-1971)とレオナール・フジタこと藤田嗣治(1886-1968)がいます。ギリシャ風の衣装を纏って暮らしていたこの二人を見て、リベラは、キュビスム絵画の題材に相応しいと悟り、川島とフジタをモデルにして、1914 年に《川島とフジタの肖像(キュビスム風の)》を制作しています。一方でフジタはリベラの肖像を描いた素描を残しています。エコール・ド・パリの画家としてパリで成功を収めたフジタは、1931年10月から中南米を放浪する旅に出ます。ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、ペルー、キューバを巡り、1932 年11月下旬から33年の6月までメキシコに滞在します。「第6章 ディエゴ・リベラをめぐる日本人画家」では、メキシコでフジタがリベラの知人たちを撮影したと思われる肖像写真,、フジタによるフランス出身コレクターの肖像画が展覧できます。また北川民次は美術雑誌『アトリエ』(1937年10月号)で「メキシコの画家」と題した特集記事で、リベラを取り上げています。この章では、フジタや北川らの作品や資料を通して、リベラと日本の接点を紹介します。

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レオナール・フジタ撮影の写真など

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レオナール・フジタ≪ディエゴ・リベラの肖像≫制作年不詳/グアダルーペ・リベラ・マリン・コレクション蔵/Guadalupe Rivera Marín

 民衆に理解してもらうために、リベラの壁画に登場する人物たちは、社会的な役割が分かるように描かれています。描写方法が類型化されていても、人物の容姿、衣服、持ち物などの特徴を的確に捉え、個々の肖像を描き分けています。油彩による肖像画においてもリベラは強い関心を持っていました。キュビズム期を含め、生涯にわたり数多くの肖像画を残しています。描写に制限があった壁画とは違い、油彩の肖像画は興味のある様式や時代性を取り入れながら、人物に応じて、様々なアプローチで肖像画を制作しています。「第7章 肖像—人間への眼差し」では、リベラの≪裸婦とひまわり≫、≪自画像≫のほかに、メキシコの写真家マヌエル・アルバレス・ブラボ(1902-2002)が撮影したリベラの肖像写真(前期のみ展示)、マリア・イスキエルド(1902-1955)の≪マリア・アスンソロの肖像と巻貝≫、フリーダ・カーロの≪ディエゴとフリーダ1929-1944(ディエゴと私Ⅱ)≫などの作品を紹介しています。

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ディエゴ・リベラ《裸婦とひまわり》1946年/ベラクルス州立美術館蔵/Museo de Arte del Estado de Veracruz/© 2017 Banco de México Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F./Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.

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フリーダ・カーロ《ディエゴとフリーダ1929-1944 (ディエゴと私)Ⅱ》1944年/個人蔵/Private Collection, Mexico City/© 2017 Banco de México Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F./Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.

 メキシコでは革命や社会のための芸術でなく、美の普遍性に憧れ芸術を審美的に探求する姿勢や、社会の集団的価値観にとらわれることのない表現の多様性を積極的に認めていく動きがありました。この動きのネットワークの役割を果たしたのは文芸雑誌でした。『ファランヘ(方陣)』はその先駆的な雑誌のひとつですが、なかでも重要な役割を果たした雑誌『コンテンポラネオス(同時代人)』 は、詩人オクタビオ・パス(1914-1998)や文化人に影響を与えました。同誌は、ルフィーノ・タマヨ(1899-1991)の初期の作品を取り上げたほかに、北川民次を特集しています。「第8章普遍性と多様性」では、文芸雑誌の展示のほかに、シュルレアリスムとメキシコの関係を取り上げています。メキシコでは運動体としてシュルレアリスムは展開しませんでしたが、シュルレアリストのアンドレ・ブルトンは、子どものころから憧れたメキシコを訪れ、フリーダ・カーロの絵画やマヌエル・アルバレス・ブラボの写真に触れています。リベラは強くシュルレアリスムに影響は受けていませんが、1940年にメキシコ市で開催された「シュルレアリスム国際展」に、フリーダ・カーロとともに出品しています。

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文芸雑誌『コンテンポラネオス(同時代人)』

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ディエゴ・リベラ《聖アントニウスの誘惑》1947年/メキシコ国立美術館蔵/Museo Nacional de Arte, INBA, Mexico City/© 2017 Banco de México Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F./Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.

【関連イベント】
※ミュージアムカレッジ「メキシコと20世紀美術」
12月2日(土)
「ミューラル・アートの発展:メキシコ、日本、オーストラリア」
ザラ・パップジリア(埼玉大学准教授)
時間:15:00-16:30(14:30開場)
場所:2階講堂
定員:100名 (当日先着順)/費用:無料
■参加申込みについての詳細は美術館ホームページで

※ミュージアム・コンサート
(本展のテーマにちなんだコンサート)
12月10日 (日)
出演:笹久保伸(ギター)、青木大輔(サンポーニャ)
時間:14:30〜 (開場は30分前、演奏時間は約60分)
地階センターホール
60席 (当日11:00から1階受付で整理券を配布)/無料
■詳細は美術館ホームページで

※学芸員によるギャラリー・トーク
11月25日 (土)
各日とも15:00-15:30
場所:2階展示室
費用:企画展観覧料が必要
■詳細は美術館ホームページで

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